残業代の基礎知識

第1 労働時間のあり方

1 労働時間とは

残業代は労働の対価として支払われるものですので、残業代を請求する前提として、まず労働時間とはどのようなものかを把握しておかなければなりません。

労働時間とは、労働者が使用者の指揮監督下におかれている時間です。

ここでいう労働時間は、労働契約上定められている所定労働時間とも、休憩時間を含めた拘束時間とも異なります。

労働時間該当性は、その時間の客観的性質によって定まりますが、問題となりやすのは、以下のようなものです。

準備作業等 準備作業や後片付けは、本来の業務に必要であるもの、必ずしも業務に必要なものではないが義務付けられているもの、行わないと不利益を課せられるものは労働時間に該当すると解されます。
手待時間 現実に作業に従事していなくても、作業と業務の間の待機時間である手待時間(てまちじかん)は労働時間となります。手待時間と休憩時間との違いは、手待時間が使用者の指示があれば直ちに作業に従事しなければならず使用者の指揮監督下にあるといえるのに対して、休憩時間は使用者の指揮監督から離脱して労働者が自由にその時間を利用できることが保障されているという点にあります。
仮眠時間 仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室での待機と、警報や電話等に対して直ちに相当の対応することとが義務付けられている場合、実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがなされていないと認められるような特別の事情がなければ、仮眠時間は労働時間にあたります(最判平成14年2月28日判タ1089号72頁)。
研修 研修や教育については、就業規則上の制裁等の不利益な取扱いの有無や、研修・教育の内容と業務との関連性の程度、不参加により労働者の業務に具体的に不利益が生じるか等の観点から、実質的に出席を強制させられていると見られる場合には、労働時間に該当します。
健康診断 労働者一般に対して行われる、いわゆる一般健康診断は、労働者の一般的な健康の確保を目的として使用者に実施義務が課されているものですので、それに要する時間は必ずしも労働時間とはなりません。一方、特定の有害な業務に従事する労働者について行われる健康診断、いわゆる特殊健康診断は、事業の遂行に際して当然実施されなければならない性格のものですので、それに要する時間は労働時間になると解されます。

2 時間外労働

(1)時間外労働

労働基準法が規定する法定労働時間は、1日8時間かつ1週40時間です(労働基準法32条)。これを超えて使用者が労働者を労働させた場合、これを超えた時間は「時間外労働」となります。時間外労働に対して、使用者は割増賃金算定の基礎となる賃金として求められた時間単価の1.25倍以上の割増賃金を支払う義務を負います(労働基準法37条)。

ただし、下記の事業のうち常時10人未満の労働者を使用するものについては、1週間について44時間、1日について8時間まで労働させることができます(労働基準法規則25条の2第1項)。

  1. 物品の販売、配給、保管もしくは賃貸又は理容の事業
  2. 映写、演劇その他興業の事業(映画の製作を除く)
  3. 病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業
  4. 旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業

(2)法内残業

労働契約上、労働者が労働義務を負う労働時間を所定労働時間といいます。たとえば、始業が午前9時、終業が午後5時で、休憩が昼の1時間あるとすると、所定労働時間は7時間となります。この場合、午後6時まで働いたとして労働時間は8時間ですから、労働基準法の定めた割増賃金は発生しません。ただ、労働契約上の義務である7時間を超えて労働しているため、社内的には残業をしていることになります。この部分を「法内残業」といいます。法内残業の賃金をどのように扱うかは労働協約、就業規則、労働契約の定めによって決まりますが、特別な合意がなければ、労働基準法上の法定労働時間を超えていないので、割増ではない通常の賃金の時間単価が請求できることになります。

(3)月60時間以上の時間外労働

時間外労働の時間が1か月について60時間を超えた場合、使用者は、その超えた時間に対して、割増賃金算定の基礎となる賃金として求められた時間単価の1.5倍以上の割増賃金を支払う義務を負います(労働基準法37条1項)。

ただし、この月60時間を超える時間外労働に対する5割増賃金の支払義務は、現在のところ中小企業主には適用が猶予されています(労働基準法138条)。しかし、この猶予については見直しも検討されていますので、今後の動きにつき注意が必要です。

現在適用が猶予されている中小企業主は、小売業だと、資本金の額または出資の総額が5000万円以下、又は常時使用する労働者数が50人以下、サービス業だと5000万円以下又は100人以下、卸売業だと1億円以下又は100人以下、これら以外だと3億円以下又は3000人以下となっています。

3 休日労働

使用者は、労働者に対し毎週少なくとも1日、休日を与えなければなりません(労働基準法35条1項)。ただし、就業規則に単位となる期間の起算日を定めれば、4週間を通じて4日以上の休日を与えることも許されます。労働基準法によって付与を義務付けられているこの休日を、法定休日といいます。

法定休日に労働させることを「休日労働」といいます。使用者は、休日労働に対して、割増賃金算定の基礎となる賃金として求められた時間単価の1.35倍以上の割増賃金を支払う義務を負います。

なお、週休2日制で土日が休みになっている企業も多くありますが、その内の日曜日が法定休日と定められている場合には、土曜日に労働をしたとしてもここにいう休日労働にはあたりません。

4 深夜労働

深夜労働とは、午後10時から午前5時までの間の労働をいいます(労働基準法37条)。使用者は、深夜労働に対して、割増賃金算定の基礎となる賃金として求められた時間単価の0.25倍以上の割増賃金を支払う義務を負います。ただ、この割増率は、深夜労働が所定労働時間内の場合であり、深夜労働かつ法内残業であれば1.25倍以上、深夜労働かつ時間外労働であれば1.5倍以上、深夜労働かつ休日労働であれば1.6倍以上となります。

5 割増賃金が発生する労働時間の計算において注意を要するもの

(1)変形労働時間制

変形労働時間制とは、労働基準法の原則である1日8時間、1週40時間の規制を適用せず、ある一定の期間(変形期間)を平均した所定労働時間が週の法定労働時間(40時間)を以内であればよいとする制度です。

この制度が導入されている場合には、変形労働時間の定め方に応じて、割増賃金が発生する時間外労働等の計算が異なりますので、注意が必要です。

ただ、この制度の導入には、厳格な要件が課されており、要件を満たしていない場合には、原則通り法定労働時間・法定休日の規程にもとづいて割増賃金の支払を請求できます。

(2)みなし労働時間制

みなし労働時間制とは、実労働時間で労働時間を算定せず、あらかじめ定められたみなし時間を労働時間とみなす制度です。

  • 事業場外みなし労働時間制は、外回りの営業など、事業場外の労働で労働時間の算定が困難である場合に認められる制度です(労働基準法38条の2)。みなし労働時間が法定労働時間内であれば、割増賃金は発生しないことになりますが、当該業務を遂行するために必要な労働時間が所定労働時間を超えることが通常である場合は、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなされるため、割増賃金が発生する可能性があります。
  • また、事業場外労働であっても労働時間の算定が可能である場合には、みなし労働時間制の適用はなく、通常の割増賃金の計算がなされます。労働時間の算定が可能とされる例としては、①何人かのグループで事業場外労働に従事し、その中に労働時間を管理する者がいる場合、〔2〕携帯電話やメール等により随時使用者の指示を受けながら労働している場合、〔3〕事業場で訪問先や帰社時刻等、当日の業務の具体的指示を受けた後に、事業場外で指示通り業務に重視し、その後事業場に戻る場合等があります。
  • 専門職裁量労働みなし労働時間制は、新商品・新技術の研究開発など専門性や創造性が高いとされる業務のうち、厚生労働省令で定める業務について、所定労働日の労働時間を労使協定で定めたみなし時間と算定するものです(労働基準法38条の3)。対象業務に該当するかどうかは実態に即して判断され、労働者が業務遂行の手段及び時間配分等の決定につき、実際に裁量権を発揮できる者でなければ本制度の適用はありません。
  • 企画職の裁量労働みなし労働時間制は、事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社・本店等の中枢部分における企画、立案、調査及び分析の業務を行う事務系労働者であって、業務の遂行手段や時間配分等を自らの裁量で決定し、使用者から具体的な指示を受けない者を対象とするもので、所定労働日の労働について労使委員会決議で定めた一定の時間労働したものとみなす制度です。

第2 割増賃金(残業代)の算定

1 割増賃金算定の基礎となる賃金

割増賃金の算定の基礎となる賃金は、以下のように求められます。

月所定賃金÷月所定労働時間数=時間単価(基礎賃金)

割増賃金算定の基礎となる賃金は、「通常の労働時間の賃金」ですので、労働との対価性が薄いものや、臨時に支払われるものは除外されます。この除外される賃金として以下の7種類が法令で制限的に定められていますが(労働基準法37条4項、労働基準法規則21条)、これらに該当しない通常の労働時間の賃金はすべて割増賃金の基礎に算入しなければなりません(ただし、残業代として支払われている手当等は除く)。なお、この除外賃金にあたるか否かは、単に名称で判断するのではなく、実質によって判断されます。

家族手当 家族手当とは、扶養家族数又はこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当です。家族数に関係なく一律に支給される手当は、除外賃金としての家族手当ではありません。
通勤手当 通勤手当とは、労働者の通勤距離又は通勤に要する実際の費用に応じて算定される手当です。距離にかかわらず一律に支給される一定額は、除外賃金にあたりません。
別居手当 別居手当とは、勤務の都合により同一世帯の扶養家族と別居を余儀なくされる労働者に支払われる手当です。
子女教育手当 子女教育手当とは、労働者の子供の教育費を補助するために支払われる手当です。
住宅手当 住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当です。名称が住宅手当であっても、住宅の形態ごとに一律に定額で支給されているものや全員一律に支給されているものは除外賃金にあたりません。
臨時に支払われた賃金 臨時に支払われた賃金とは、臨時的突発的事由に基づいて支払われたもの及び結婚手当等支給要件はあらかじめ確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ非常に稀に発生するものをいいます。例えば、私傷病手当、加療見舞金、退職金などがこれにあたります。
1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 賞与やこれに準ずるものが、この賃金にあたります。

残業代として支払われている手当

上記の除外賃金以外にも、残業代として支払われている手当については、これを基礎賃金に算入してしまっては残業代の二重払いになるため、基礎賃金から除くことになります。

この手当が残業代として支払われていると認められるためには、①残業代として支払われている手当につき、時間外・休日・深夜割増賃金としての性格が明示されていなければなりません。次に、〔2〕残業代として支払われている手当が、割増賃金として充当される額が明示され、又は、充当される額が容易に算定可能であり、かつ、超過分の支払が合意されていなければなりません。

2 割増率のまとめ

法内残業 割増でない時間単価の賃金
月60時間以下の時間外労働 125%以上
月60時間を超える時間外労働 150%以上
法定休日労働 135%以上
深夜労働(法定労働時間内) 25%以上
深夜かつ月60時間以下の時間外労働 150%以上
深夜かつ月60時間以上の時間外労働 175%以上
深夜かつ法定休日労働 160%以上
休日かつ時間外労働 135%以上

3 割増賃金の計算

(1)計算方法

基礎賃金×労働時間の性質に応じた割増率×労働時間の性質毎の労働時間数
=労働時間の性質に応じた割増賃金額

労働時間の性質毎の割増賃金額を足し合わせた金額が、請求できる金額になります。

(2)遅延利息

割増利賃金を含めた賃金支払遅延については、年6%の利息がつきます(商法514条)。

また、退職後の労働者に対して未払いの賃金がある場合には、退職日の翌日から支払日までの期間、年14.6%の利息が付くことになります。

したがって、実際に請求する際にはこれらも合わせて請求することになります。

第3 消滅時効

未払い残業代の請求権は、2年間が消滅時効期間となっています(労働基準法115条)。

具体的には、消滅時効は権利を行使することができる時点から進行しますので(民法166条1項)、未払い残業代請求の2年前以降に発生する賃金請求権は2年間の消滅時効期間を経過していないことになります。通常、賃金は毎月一定の支払日に支払われますので、未払い残業代請求の2年前の後に支払日が到来したもの以降の残業代を請求できることになりますが、請求をしなければ時間の経過とともに1か月分ずつ消滅時効にかかって請求権が消えていくことになります。

第4 請求方法

1 交渉

直ちに訴訟提起等の手続をとるのではなく、まずは未払いの残業代等を計算のうえ、内容証明郵便で使用者に請求し、話合いによる解決を試みることが一般的です。

この請求によって消滅時効期間が中断するわけではありませんが、6か月以内に労働審判や訴訟等を行えば、間近に迫った消滅時効の完成を先延ばしにできる効果があります。

2 労働基準監督署への申告

割増賃金の不払いは、労働基準法37条違反となります。そこで、所轄の労働基準監督署へ申告することが考えられます。この効果として、使用者が未払いの割増賃金を任意に支払う可能性もあります。ただし、消滅時効を中断させる効果はないので、注意が必要です。

3 労働審判

労働審判手続は、労働審判官(裁判官)1人と労働関係に関する専門的な知識と経験を有する労働審判員2人で組織された労働審判委員会が、個別の労働紛争を、原則として3回以内の期日で審理し、適宜調停を試み、調停による解決に至らない場合には、事案の実情に即した柔軟な解決を図るための労働審判を行うという手続です。

労働審判に対して当事者から異議申立てがあれば、労働審判はその効力を失い、労働審判事件は訴訟に移行することになりますが、訴訟に比べて短期間で和解に至る可能性もあることから、利用価値は高いものと考えられます。

4 訴訟

金額面や計算方法に争いがあり、上述の手続等で和解がまとまらない場合や、審判が出ても異議申立てがなされたような場合などは、訴訟手続で争点に対する裁判所の判断をしてもらうことになります。

訴訟においては、残業代請求にあたっての主張を的確に組み立て、それを裏付ける客観的な証拠を提出していかなければなりません。たとえば、労働時間数に争いがある場合、タイムカード等によって労働時間数を立証しなければなりません。

訴訟では、最終的に裁判所の判決が出ることになりますが、訴訟中に和解の話合いがなされることもあり、和解で終了する例もあります。

なお、裁判所は、割増賃金等を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、使用者が支払わなければならない金額と同一額までの付加金の支払を命ずることができるとされています(労働基準法114条)。ただ、裁判所は、使用者による労働基準法違反の程度・態様、労働者の不利益の性質・内容等諸般の事情を考慮して支払義務の存否及び額を決定します。そして、付加金は、訴訟における判決のみによってしか認められません。

第5 管理監督者

事業の種類に関わらず、監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者は、労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されません(労働基準法41条2号)。ただし、深夜業に関する規定及び年次有給休暇に関する規定は適用されます。この監督若しくは管理の地位にある者を、「管理監督者」といいます。

労働基準法の定める労働条件は、最低基準を定めたものですので、この適用が除外される管理監督者にあたるための要件は、行政通達及び判例において厳格に解釈されています。すなわち、管理監督者は、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であり、その要件として、①労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、〔2〕現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者、とされています。この要件に該当するかを判断するにあたって、労働者の職務内容、責任と権限、勤務態様、賃金等の待遇面などの要素が考慮されます。

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